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うにゅほとの生活を書き連ねた日記が十三年と八ヶ月半分たまった(2025年8月前半)

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1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
http://neargarden.web.fc2.com/



571 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:54:33 ID:kklPaipw0

2025年8月1日(金)

昨夜、郵便局のサイトから集荷を頼んだ。
駿河屋に送りつけるのは六箱。
送り状も六枚必要ということで、郵便局員が、まずは着払い用のものを置いていった。
「──うし、書くか!」
「わたしもかくね」
六枚ともなれば、なかなか面倒だ。
うにゅほの手も借りたいのが実情である。
「じゃあ、まず俺が一枚書くよ。××はそれを真似して書いてくれ」
「はーい」
俺はパソコンチェアで、うにゅほは丸椅子に腰掛けて、ふたりで送り状を書いていく。
「……かくとこ、おおいね」
「多いな……」
「たいへん、かも」
「わりと適当に書いても届くらしいんだけど、なんかな」
「わかる」
当の郵便局員であれば、サラサラと流れで書いてしまえるのだろう。
だが、こちらとしては、そういうわけにもいかない。
駿河屋に届かなければ困るからだ。
「あー……」
手首を振り振り、息を吐く。
「手で字書くの慣れないわ。学生時代、よくノート取れてたな」
「◯◯、どんながくせいだったの?」
「不真面目」
「ふまじめ……」
「不良ではないんだけど、不真面目で、授業中よく寝てたな」
「まんがみたい」
「そうかもしれない」
そんな会話を交わすうちに、ようやく六枚の送り状が完成した。
「よし、あとは郵便局員が来るのを待つだけだな」
「はらなくていいの?」
「勝手に貼ってダメだったら、送り状書き直しだぞ」
「やだー……」
心底嫌そうに眉尻を下げるうにゅほに、思わず苦笑する。
「ま、あとは郵便屋さんに任せればいいんだよ。俺たちの仕事はここまで」
「みつもりから、やすくなったりしないかな」
「多少はする気がするなあ……」
「えー」
「ある程度は仕方ないよ」
だが、減額は最低限にしてほしい。
あとは駿河屋からのメールを待つのみである。








572 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:54:55 ID:kklPaipw0

2025年8月2日(土)

「ふへー……」
「今日も暑いよな、マジで……」
エアコンの効いた自室で、ガリガリ君をガリガリ囓る。
こんな贅沢がこの世にあるだろうか。
「そと、さんじゅうにど」
「暑いはずだわ」
「へや、でたくないねー……」
「トイレもできれば行きたくない」
「といれ、あつい」
「暑いせいか、なんかニオイきつくない?」
「わかる」
「発酵してるのかな……」
「そうぞうさせないでー……」
「あとでまた掃除するわ」
「うん」
二階のトイレ掃除は俺の仕事である。
うにゅほは家全体を掃除してくれているので、これくらいは俺がやらなければ。
膝の上でだらだらしている我が家の家事マスターの頭を撫でていると、
「あ」
「どした」
「あたった!」
「マジか」
「ほら!」
うにゅほが俺に当たり棒を見せつける。
「ことし、にほんめ!」
「運いいな」
「うん!」
「……いや、いいのかな」
「?」
「単純に、それだけ食ってるってだけの話なのでは」
「もー」
うにゅほが口を尖らせる。
「うんいいで、いいの!」
「──…………」
そうかもしれない、と思った。
はっきりと答えを出せない事柄に対し、ポジティブに捉えるのは大切なことかもしれない。
「……そうだな。運いいな」
「でしょ」
一夏に二度、ガリガリ君が当たる。
これは運がいいことなのだ。
「ことし、なんほんあたるかなあ」
「八本当てて二桁にしようぜ」
「しよう、しよう」
とは言え、あと八本はさすがに腹を下しそうなのだった。





573 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:55:13 ID:kklPaipw0

2025年8月3日(日)

「──あっ」
ガリガリ君を囓っていて、ふと気が付いた。
「当たってる……」
「!」
座椅子でだらだらしていたうにゅほが、慌てて顔を上げた。
「ことし、さんぼんめ!」
「これはさすがに運がいいな」
「うんうん!」
「運だけに」
「うんだけに」
ガリガリ君を食べ終えたあと、当たり棒を水洗いし、うにゅほに手渡す。
「はい、これ」
「ありがと!」
「今年三本目か。あと七本、現実味を帯びてきたな」
「がんばって、たべようね」
「腹下さない程度にな」
「うん」
うにゅほが小箪笥の上に当たり棒を置く。
その隣には、二本の当たり棒が並べられていた。
「じっぽんたまったら、どうする?」
「どうするって……」
返答に窮する。
どうするも何もない気がする。
「こうかんする?」
「あ、そういう」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「……ガリガリ君の当たり棒だけでログハウスの模型でも作ってみる?」
「たりない!」
「だろうな」
もちろん冗談である。
「とは言え、当たり棒交換するの恥ずかしくないか……?」
「わかるー……」
「しかも、十本同時とか、嫌がらせかと思われそう」
「うーん……」
「まあ、宝物にしとけばいいんじゃないかな」
「そか」
「もしくは、いつかログハウスの模型を作るために」
「おばあちゃんになっちゃう……」
「××なら、可愛いお婆ちゃんになるな」
「……ふへ」
目標の十本まで、残り七本。
果たして、夏のあいだに、あと七回もガリガリ君の当たりを引くことができるのだろうか。






574 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:55:31 ID:kklPaipw0

2025年8月4日(月)

Amazonからメールが届いた。
「──返品できない?」
「?」
膝の上のうにゅほが、ガリガリ君を食べながら小首をかしげる。
「へんぴん?」
「ほら、Keychronの交換用キーキャップ買ったろ」
「うん」
「あれと一緒に、間違って、英語配列の別のキーキャップ買っちゃったじゃん」
「あ、そのへんぴん」
「そう。あれ、Xのキーキャップが不足してるらしくて、返品できないってメール来た」
「え、だって、あけてない……」
「開けてない」
「よね?」
「届く前から返品は決めてたから、そのまま送り返したよ」
「じゃあ、なんでだろ……」
「もともと欠品してたとか?」
「けっぴんしたの、へんぴんしたら、へんぴんできないの……?」
「そうなるな……」
「えー」
うにゅほが眉根を寄せる。
俺も、まったく同じ気持ちだった。
「仕方ない。Amazonのカスタマーセンターに電話しよう」
ネットで軽く方法を調べたあと、Amazonに連絡を行う。
丁寧なオペレーターに事情を説明したところ、専用の部署に一報を入れてくれるとのことだった。
「ふう……」
「へんぴん、できる?」
「わからないけど、言うだけは言ったよ」
「へんぴんできたらいいねえ……」
「三千円くらいだし、そこまで困るってわけでもないけど、商品がこっちに戻ってくるのが嫌だな」
「つかえないもんね」
「しかも、Xのキーがないんだぞ」
「よけいにつかえない……」
「ハッキリ言ってゴミだよ……」
Amazonへの返品なんて慣れていないので、どうなることやら。
無事に返品できればいいのだが。





575 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:55:55 ID:kklPaipw0

2025年8月5日(火)

いつものようにパソコンチェアに座っていて、ふと気が付いた。
右の太股の裏が、じんわりと痛いのだ。
「……?」
もぞり。
右足を軽く上げる。
「わ」
俺の膝でくつろいでいたうにゅほが、目をまるくした。
そのまま太股の下に右手を差し入れると、軽い痛みが走った。
「しこりがある……」
「しこり?」
「なんか、太股の裏にある」
「みして」
「ああ」
うにゅほを立たせ、腰を上げる。
そして、作務衣の下衣をずり下げ、トランクス一丁でうにゅほに背を向けた。
「これ?」
つん。
「て」
「いたい……?」
「すこし」
自分でしこりに触れる。
思いのほか大きく、硬い。
「これ、なんだろう……」
「びょういんいこ」
「やっぱ病院か。皮膚科かな」
「たぶん……」
とは言え、時刻は既に夜である。
「あしたいこうね」
「うーん……」
「いこ?」
「ChatGPT先生に聞いてみよう」
「いこ……」
聞いてみた。
「いきなり出てきたってことは、悪性腫瘍の可能性は低いって。なるべく病院へは行ったほうがいいけど、様子を見てからでもいいらしい」
「いかないの?」
「行きたいのは山々なんだけど、皮膚科混むからさあ……」
「そだけど」
「まあ、今週いっぱい様子を見てみよう。小さくなるようなら行く必要はないし」
「うーん……」
あまり納得行っていない様子のうにゅほだが、通院はなるべく減らしたいのが人情というものだ。
何事もなく消えてくれればいいのだが。





576 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:56:12 ID:kklPaipw0

2025年8月6日(水)

「なんかとどいてたー」
ダンボール箱を軽々と持ちながら、うにゅほが自室に帰ってくる。
「なにかったの?」
「××も見たことあるものだよ」
「ふんふん」
大きめの箱を開封すると、すぐに中身が判明した。
「あ!」
うにゅほが目をまるくする。
「あれだ!」
「そう、あれだ」
「これかったんだ!」
「買ってみました」
俺とうにゅほのあいだでは「あれ」「これ」で通じるが、公開している日記でそれは不味いだろう。
読者諸兄のために説明すると、購入したものは、シャクティマットと呼ばれる表面に鋭いトゲトゲが無数に付いたマットである。
このトゲトゲの上に寝ることで、鍼灸的な効果が得られる、らしい。
「さっそく──いてッ!」
マットを広げようとして、トゲトゲが指に刺さった。
「……これ、思った以上に鋭いぞ」
「ほんと?」
うにゅほがトゲに触れる。
「た!」
「これの上に寝るのか……」
「むり」
あ、うにゅほが諦めた。
「◯◯も、やめたほういいよ……?」
「物は試しだって」
「いたいとおもう」
「痛くないってことはないだろうな、間違いなく……」
とは言え、せっかく買ったものだ。
試しもせずにクローゼットに仕舞い込むのは面白くない。
俺は、フローリングの床にマットを敷き、その傍に腰を下ろした。
「……やるの?」
「やる」
「むりしないでね……」
「大丈夫だって」
それがフラグにならなければいいのだが。
そんなことを考えながら、シャクティマットに背中を預けていく。
「──…………」
完全に仰臥し、天井を見上げる。
「……あれ、いたくない?」
「死ぬほど痛い」
「いたい!」
「痛くないわけないだろ!」
「だいじょぶ……?」
「まあ、耐えきれないほどの痛みではないかな。しばらく我慢してみる」
「うん」
十分ほどすると、痛みに体が慣れてきたのか、徐々に楽になってきた。
「へいき?」
「平気は平気だけど、最初はこのくらいにしようかな」
「はい」
うにゅほが俺に手を差し伸べる。
その手を取り、そっと上体を起こした。
「せなかみして」
「ほら」
「わあ!」
「どうなってる?」
「あかくてぼつぼつしてる……」
当然である。
さて、このシャクティマット、本当に良い効果があるのだろうか。
しばらく使い続けてみようと思う。






577 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:56:33 ID:kklPaipw0

2025年8月7日(木)

「うめえー……」
ガリガリ君の梨味をボリボリと食べ進めながら、思わず言葉が漏れた。
「なしあじ、すき?」
「好き」
「いちばんすき?」
「いちばんはソーダ味だな……」
「わかる」
「でも、ガリガリ君の梨味ってさ。梨のいちばん美味しいところをずっと囓ってる感じがして」
「それもわかる……」
うんうんと頷き、うにゅほが尋ねる。
「でも、◯◯、なしすきだっけ」
「うーん……」
俺は、フルーツ全般があまり好きではない。
とは言え、梨はまだ食えるし、好きなほうだ。
ただ──
「梨って、食べてくと、どんどん味がなくなってくじゃん」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「んで、だんだんジャリジャリしてくるって言うか……」
「……うーん?」
「ピンと来ない?」
「こない」
「たぶん、梨の甘さに慣れるんだと思うけど」
「なし、ずっとおいしいよ?」
「俺がおかしいのかな……」
「はずれのなし、だったのかも」
「今まで食べてきた梨全部?」
「うん」
「そっかあ……」
即答されてしまうと、そうなのかもしれないと思ってしまう。
「じゃあ、当たりの梨食べてみたいな。ガリガリ君みたいな味なのかな」
「どっち、おいしいかなあ……」
「食べ比べてみたいわ」
「いつか、あたりのなし、たべようね」
「ああ」
まあ、自腹での購入は、まずしないと思うけれども。
この約束が履行されるのは、果たしていつになることやら。





578 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:56:53 ID:kklPaipw0

2025年8月8日(金)

「ね、◯◯……」
「んー?」
膝の上のうにゅほが、心配そうに口を開く。
「ひふか、いかないの?」
「皮膚科」
「うん」
「あー」
そうだった。
太股の裏側にしこりができていたのだった。
日常生活において太股の裏を意識することがあまりにないため、忘れていた。
「ちょい待ち」
右足を軽く持ち上げる。
「わ」
「んー……」
もぞもぞと太股の裏を探る。
「……あれ?」
「どしたの?」
「ない……」
「え」
「しこりが、ない」
「ないの?」
「悪い、××。いったん降りて」
「はい」
うにゅほを膝から降ろし、立ち上がる。
「んー……?」
ぺたぺた。
太股の裏側に触れていき、
「──あ、これだ!」
「どれ?」
「ここ、ほら」
「わかんないから、ぬいで」
「はい」
作務衣の下衣をずり下げ、トランクス一丁になる。
「ほら、ここ。しこりがあった場所」
「え、どこ?」
「触ってみ」
「うん」
つんつん。
「あ、ちょっとかたい……」
「なんか小さくなってる。触っても痛くない」
「なおってる?」
「たぶん……」
「よかったー……」
うにゅほが、ほっと胸を撫で下ろす。
「皮膚科行かなくてよかったな」
「いくのは、いったほうよかったとおもう。なおるしこりだったの、たまたまだし」
「あ、はい……」
実に正論である。
早め早めの病院で、なるべく寿命を延ばしていこう。





579 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:57:12 ID:kklPaipw0

2025年8月9日(土)

ふと、名前のわからないものが思い出されるときがある。
外見や味、舌触りまで覚えているのに、名前だけがとんと出てこない。
「なんだっけ……」
「なにー?」
「ロイズにパン屋あったじゃん」
「おいしいとこ」
「そう、美味しいとこ」
「ふんふん」
「あそこで、バターロールに板チョコそのまま挟んだみたいな豪快なパンあったじゃん」
「あ、あった!」
「あれ、名前なんだっけ……」
「んー」
うにゅほが参戦してくれた。
百人力とは言いがたいが、ひとりで悩むより遥かにましだ。
「ぱぐ、みたいな……」
「ああ、わかる。二文字なんだよな」
「そうそう」
「ザク」
「ざくではない……」
「グフ」
「ぐふでも、たぶんない」
「マジでなんだったっけ……」
既に十分ほども悩み続けている。
「しらべる?」
「……調べる、かあー……」
できれば自分で思い出したかった。
腰は重いが、仕方あるまい。
Google先生に尋ねたところ──
「ぐて!」
「グテだ、グテ。そうだ。完全に思い出したわ」
「ぐて、おいしかったね」
「はみ出しすぎなんだよな。美味かったけど」
「また、たべたいね」
「今度近く通ったら、寄ってみるか」
「うん!」
暑さで出不精に拍車が掛かっている。
次に近くを通るまでに忘れていなければいいのだが。





580 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:57:30 ID:kklPaipw0

2025年8月10日(日)

アップルウォッチに視線を落としながら、うにゅほが言う。
「はとのひー」
「鳩の日だなあ」
「へいわなひ、なのかな」
「かもなあ」
「もー。きょうみもって!」
「はいはい」
"8月10日"で検索していく。
「ハートの日でもあるらしい。なるほどだな」
「かわいい」
そんな会話を交わしていると、Googleのサジェストにこんな文字列が表示された。
"8月10日 汚い"
「──…………」
なるほど。
これは恐らく、うにゅほに見せてはいけないたぐいの情報だ。
「きたない……?」
「あ」
気付いてしまった。
「……不思議だなあ」
「はとのひも、はーとのひも、かわいいのにね」
「そういうこともあるさ」
Googleのタブを閉じる。
「あ」
「どした?」
「みたかった……」
「気にしない、気にしない」
「──…………」
うにゅほが半眼で俺を見上げる。
「ん?」
「◯◯、なんかかくしてる」
「……隠してないよ?」
「かくしてる。わかる」
「──…………」
さすがうにゅほ、俺のプロフェッショナルだ。
だが、俺は俺で、うにゅほを言いくるめるスペシャリストである。
「思い出したんだよ。実は、ちょっとよくない記念日があって……」
「よくないの?」
「たぶん、気分は悪くなる。ハッキリ言って汚い。だから、××に、そんな思いさせたくなくてさ」
「◯◯……」
「知らないほうがいいよ」
「……わかった」
すこし名残惜しそうだったが、野獣の日だのハッテンの日だの、うにゅほの耳に入れられるはずもない。
うにゅほには清い心でいてほしいものだ。





581 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:57:48 ID:kklPaipw0

2025年8月11日(月)

「──あ、またむし!」
「おらッ!」
デスクの上に止まった小さな虫を、指先で潰す。
「やた!」
ティッシュで虫をくるんだあと、指を拭い、溜め息をついた。
「昨日から四匹目か……」
「なんか、おおい」
「しかも、いつも同じ虫だ」
体長3mmほどの、羽の生えた小さな虫。
観察する気も起こらないが、同じ虫であることだけはわかる。
「……部屋のどっかで湧いてんのかな」
「えー……」
「でも、俺たち部屋に食べ物置かないし」
「◯◯、たべちゃうもんね」
「ついな」
湧いているとして、理由がわからない。
「サボテンの鉢植えとか」
「わたし、たまにみてるけど、むしとかいないよ?」
「だよなあ」
「さぼてんじゃないよ」
庇っているようにも見えるが、さすがに嘘はないだろう。
「部屋、軽く調べてみるか」
「うん……」
書斎側、寝室側の電灯をつけ、それらしい場所に捜査の手を入れる。
ベッドの下を調べていたとき、
「◯◯! ◯◯!」
うにゅほが慌てて俺の名を呼んだ。
「どうした!」
「むし、なんかおちてる!」
「落ちてる……?」
書斎側へ向かうと、先程までいなかった小さな虫が三匹ほど、床を這っていた。
「こいつら、どこから!」
思いのほか動きの鈍い虫を二匹潰し、三匹目は形が残る程度に圧殺する。
「──…………」
「なんか、わかる?」
「……これ、羽アリじゃないか?」
「あり!?」
「ああ……」
羽は横に長く、体にはくびれがある。
小さくて確定はできないが、アリであるように見えた。
「あり……」
最悪の記憶が蘇る。
アリが屋内に侵入してきたときの記憶だ。
あのときは、結局、害虫駆除業者に頼んでようやく解決したっけ。
「……また業者に頼む羽目になるかもな」
「たのむなら、はやくたのも……」
「だな……」
どんな薬剤を使ったとて、結局、素人は無力なのだ。
早め早めの対策を。
近隣の駆除業者を探しておかなければ。





582 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:58:07 ID:kklPaipw0

2025年8月12日(火)

膝の上のうにゅほが、フローリングの床を見渡す。
「……あり、いない?」
「見た感じ、いないけど……」
「そか……」
ほっと胸を撫で下ろし、ディスプレイに視線を戻す。
五分後、
「──…………」
うにゅほが、また、床へと視線を向けていた。
「そんなに警戒しなくても」
「ありは、だめ」
「わかるけどさ……」
以前、アリが屋内へと侵入したことがあった。
やつらは、道しるべフェロモンによって、一度決めたルートを愚直に歩き続ける。
その途中でいくら潰しても殺しても無駄なのだ。
あとからあとからやってきて、必ず目的のエサまで辿り着く。
単なる一匹の虫ではなく、アリというシステムと戦っているような不気味さがあった。
「ただ、いったん様子見だ。羽アリがどこから入ってきたかわからないけど、俺たちの部屋にエサはないわけだから」
「でも、(弟)のへやにもいたよ?」
「いたのか……」
「うん。(弟)のへやも、えさないけど」
それならば、二階への再訪はないはずだ。
ただ、恐らく躯体への侵入は既に果たされているため、いつ普通のアリが台所に現れるかはわからない。
出てきた時点で業者を呼ぶのが恐らく最速ルートである。
「はァ……」
アリによるストレスか、なんだか頭が重い気がする。
そう言えば、今朝は睡眠時間が短かったっけ。
「──……?」
思わず小首をかしげる。
「××」
「?」
「俺、今朝寝たっけ……」
「きおくないの?」
「記憶がない」
「……だいじょぶ?」
「大丈夫と言えば大丈夫だけど……」
「ねてたよ」
「寝てたんだ」
「いすでねてた」
「椅子でか……」
「ごめんね。おこしたんだけど……」
「いや、起きない俺が悪い」
このチェア、やたらと寝心地がいいんだよな。
良いことなのか、悪いことなのか、いまいち判別がつかないのだった。





583 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:58:26 ID:kklPaipw0

2025年8月13日(水)

俺の膝の上で優雅にガリガリ君を食べながら、うにゅほが言う。
「さいきん、あつくないねー……」
「いいことじゃん」
「いいことだけど」
「暑いほうがいいのか?」
「やくそくした」
「約束……」
しばし思案する。
俺も、うにゅほも、言葉足らずなところがある。
適当に言っても相手に伝わるからだ。
「──あー、あれか」
「それ」
次の猛暑日、部屋を蒸し風呂状態にして、室温が何℃まで上がるかの実験を行う約束をしていたのだ。
「あつくなんないねー……」
「真夏日はちょこちょこあるんだけどな」
「まなつび、あつくない」
「まあ、わかる」
七月に猛暑日を経験したことで、基準がどこかおかしくなった。
真夏日が涼しいだなんて言うつもりはないが、「この程度?」と思ってしまうのは無理からぬことだろう。
エアコンの効いた部屋にずっといる身としては、そんなことを言う権利はないように思うが。
「んー……」
しゃくしゃく。
ガリガリ君を美味しそうに食べながら、うにゅほが何かを考える。
「……美味しいか?」
「おいしい」
「当たった?」
「はずれー」
「そっか」
ガリガリ君の当たり棒は、まだ三本。
目標の十本は、遥か遠く、まだ見えない。
「まあ、いいかー……」
「いいんじゃないか。暑い日が来たらで」
「ん」
そもそも、来ないとどうしようもないし。
八月中に再度熱波が来るか否か。
神のみぞ知る。





584 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:58:50 ID:kklPaipw0

2025年8月14日(木)

「病院行くけど」
「はーい」
身支度を整え、愛車で出発する。
今日は、よく日記に書く一ヶ月に一度の定期受診ではなく、二ヶ月に一度のものだ。
そのため、予約は午後三時で、かなり余裕がある。
「何分で終わると思う?」
「うーと、たぶん、じゅっぷん……?」
「なるほど、いいとこだな」
今日行く病院は、予約制であることもあいまって、異常に早く終わる。
診察と言えば、ここ二ヶ月の報告を済ませるだけだ。
「ファミマ寄ろう。昼食べてないし」
「いいよ」
ファミマでパンを購入し、愛車の中で食べる。
「ファミチキレッド、こんなに辛かったっけ……」
「からい?」
「食べる?」
「たべる」
「文句言うなよ」
「いわないよー……」
しばらくして、うにゅほが舌を出しながら言う。
「はら!」
「辛いよな」
「からいー……」
「ほら、豆乳」
「あいがと」
ファミマのゴミ箱にゴミを捨てて、再び出発する。
病院に着いたのは、午後三時ちょうどだった。
そして、病院を出たのは、午後三時五分だった。
「ごふんでおわった……」
「最短記録じゃないか?」
「そうかも」
「患者、誰もいなかったしな……」
「でも、はやいぶんにはいいから」
「そうだけど、月に一度のほうと足して二で割りたいよ」
「わかる……」
月に一度の定期受診は、やたらと混むのだ。
朝一で家を出ても、おおよそ一時間は待つ。
「つぎ、いつ?」
「19日かな」
「◯◯、はやおきしないとね」
「……頑張る」
面倒だが、行くしかない。
このポンコツな体を引きずってでも、生きねばならないのだから。





585 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:59:13 ID:kklPaipw0

2025年8月15日(金)

「♪」
うにゅほが機嫌よくサボテンに水をあげている。
その姿を見て、今日が15日であることに思い至った。
「もう半月経ったのか……」
「たったよ」
「八月も残り半分じゃん」
「そうだよ」
「早いって……」
「はやいよ」
「暑さも随分大人しいし、なんとなく過ぎちゃったな」
「◯◯、いろいろやってたきーするけど……」
「やってはいた、うん」
実を言えば、創作分野でちょっとした革命が起きていたりした。
時の流れが早いのは、そのせいでもあるだろう。
「今月、他に何があったっけ」
「なんだっけ……」
「××、思い出せる?」
「うーと、◯◯のしこりとか?」
「あー」
太股の裏に唐突に現れた大きめのしこりのことだ。
急ぎ皮膚科へ行くつもりだったのだが、気付けば影も形もない。
「あれ、なんだったんだ……」
「わかんない……」
「他には、あれ買ったな。シャクティマット」
「とげとげ」
「××は指で触れた時点で心折れてたな……」
「ぜったいいたいもん」
「俺、シャツ越しなら平気になったぞ」
うにゅほが、信じられないものを見るような目つきで俺を見る。
「さっき、それで、かみんとってたもんね……」
「痛いは痛いんだけど、心地良い痛さっていうか」
「うそだ」
「嘘じゃないって……」
「わたし、◯◯いないとき、ねてみたもん」
「どうだった?」
「ひめいでた……」
「××、敏感そうだもんな……」
人には向き不向きがある。
俺も、シャクティマットの効果を実感したわけではないので、しばらくは様子見だ。
「八月前半は、そんなとこか」
「だね」
「後半は何があるかな」
「いいことあったらいいね」
「ああ」
何か素晴らしい出来事があればいい。
だが、往々にして、現実は期待を裏切るものだ。






586 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/16(土) 04:59:57 ID:kklPaipw0

以上、十三年九ヶ月め 前半でした

引き続き、後半をお楽しみください
 
 



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