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うにゅほとの生活を書き連ねた日記が十三年と八ヶ月分たまった(2025年7月後半)

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1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
http://neargarden.web.fc2.com/



554 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:07:47 ID:dbl3plnQ0

2025年7月16日(水)

皮膚科へ行く予定だった。
と言うのも、しばらく前から、両足の甲に斑点のようなものが浮かび上がっていたからだ。
午前八時に起床し、身支度を整える。
「ひふか、なんじからかな」
「たぶん九時とかじゃないか?」
「しんさつけん、どこ?」
「財布の中」
うにゅほが俺の財布を調べ、皮膚科の診察券を取り出す。
「あ」
「どした?」
「すいよう、やすみ……」
「──…………」
着たばかりのシャツを脱ぎ捨てる。
「寝る……」
「おやすみー」
そのまま就寝し、起きたときには正午だった。
「……──ふぁ、っふ」
「あくびー」
「眠い」
「かおあらお」
「はい」
素直に洗面台へと向かい、顔を洗って自室に戻る。
「おはよ」
「おはよう」
「よくねた?」
「まあまあ……」
「すわって、すわって」
うにゅほに導かれるまま、パソコンチェアに腰を下ろす。
「よいしょ」
俺の膝に腰掛けたうにゅほが、PCのマウスを握った。
「いっしょにみよ」
「何を見るんだ?」
「まりおかーとのどうが」
「××、なんか好きだよな。Switch2とマリカワールド、欲しい?」
「べつに……」
いらんのかい。
うにゅほ歴十三年の大ベテランの俺にはわかる。
この子、本当にさして欲しくない。
「動画で満足するタイプなのか……」
「みるのすき」
「まあ、わかるけど」
Switch2は気になるが、特にプレイしたいソフトもないため、買うとしてもかなり後のことになるだろう。
転売ヤーのせいで高騰していなければいいのだが。







555 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:08:14 ID:dbl3plnQ0

2025年7月17日(木)

午前八時に起床し、あくび混じりに身支度を整える。
「ねっむ……」
「◯◯、おきるのはやかったね」
「なんか起きちゃった……」
皮膚科の診療時間は午前九時半からだ。
受付が早めに開くことを鑑みても、八時半に起きれば余裕だったのだが、目が覚めてしまったものは仕方がない。
「んー……」
軽く思案し、口を開く。
「早めに出るかあ」
「こんなに?」
「コンビニで朝メシ買おうかなって」
「あー」
「××は?」
「わたし、たべたよ」
「そっか」
エアコンの修理を終えた愛車に乗り込み、皮膚科への道をひた走る。
途中、セブンイレブンで朝食をとり、無事に皮膚科に着いたのは午前八時四十分のことだった。
待合室を覗いたうにゅほが、俺にそっと話し掛ける。
「おきゃくさん、もういるね……」
「いるなあ……」
さすがにまだ混み合ってこそいないが、待合室の席の半分ほどがもう埋まっていた。
病院は数多あれど、何故皮膚科はここまで盛況なのだろう。
謎だった。
そのまま一時間以上待たされて、ようやく順番が回ってくる。
ほんの五分で診察を終えて、俺とうにゅほは待合室へと戻ってきた。
「慢性色素性紫斑かあ……」
見た目が悪くなる以外、特に症状のない病気だ。
「ひどくなくて、よかったね」
「まあな」
ただ、足の甲にできた紫色の斑点は、基本的に治ることがないらしい。
薬で色を薄くすることはできるが、完治ではない上に継続的に飲む必要があるらしく、何度も皮膚科に通いたくない俺としては不要な治療だった。
「帰るかー……」
「うん」
病院を出て、愛車の元へと向かう。
日向を歩いた瞬間、強烈な陽射しが俺たちに襲い掛かった。
「あッ、……づ!」
「あついー!」
取り急ぎ愛車に乗り込み、慌ててエンジンを掛ける。
七月も後半へと差し掛かり、本格的な夏が到来したようだ。
ガリガリ君の消費量が激しくなる予感がするのだった。





556 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:08:36 ID:dbl3plnQ0

2025年7月18日(金)

所用のため、市役所の関連施設へと赴いた。
珍しく混んでおり、玄関前の駐車場が軒並み埋まっていたため、すこし離れた場所に駐車した。
「××、走るぞ!」
「うん!」
降りしきる雨の中を、傘を差さずに駆け抜ける。
後部座席を探せば傘くらい見つかりそうなものだが、そのときは頭から抜けていた。
「ふー……」
「どんくらい濡れた?」
「すこしかなあ」
髪を濡らした雨水を手で払いながら、うにゅほがそう答えた。
安心する。
この程度ならば、風邪を引くこともないだろう。
ふたりで窓口へと向かい、手続きを済ませる。
職員が書類をコピーするために席を外した際、うにゅほが備え付けの老眼鏡を手に取った。
「ろうがんきょう」
「ああ」
「◯◯、かけてみて」
「ええ……」
なんだか恥ずかしい。
それに、もしも早めに老眼が来ていたら、ショックだ。
「かけてかけて」
うにゅほが、手にした老眼鏡を俺の顔に近付けてくるので、仕方なくそれを受け入れた。
「──…………」
よかった。
ちゃんと見えにくい。
老眼ではなさそうだった。
「みえる?」
「見えない。××の顔もぼやけてる」
「ふうん……」
俺の老眼鏡を外し、今度は自分で装着する。
「わ」
「見えないだろ」
「◯◯のめがね、かけたときみたい」
「懐かしいな……」
俺は重度の近眼である。
眼鏡を掛けずにいられているのは、ICL手術のおかげだ。
だが、いずれは老眼鏡の世話になる日が来るのだろう。
嫌だなあ。
もう二度と眼鏡なんて掛けたくない。
「?」
そんな気持ちが顔に出ていたのか、うにゅほが小首をかしげてみせた。
視力いい子ちゃんめ。






557 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:08:51 ID:dbl3plnQ0

2025年7月19日(土)

「──◯◯、◯◯!」
「お」
「きて!」
部屋へ戻ってくるなり、うにゅほが俺の手を引いた。
「なんだなんだ」
「うへー」
そのまま連れ込まれたのは、両親の寝室だった。
「みて!」
うにゅほが窓の外を指差す。
眼下の公園では、明日の夏祭りの準備が行われていた。
「あした、おまつりやる!」
「よかった……」
思わず胸を撫で下ろす。
夏祭りの予定は二週間ほど前に知らされていたが、天気予報で雨だ雨だとさんざん言われていたからだ。
俺も、うにゅほも、この町内会の小さなお祭りを、本当に楽しみにしている。
だから、準備が粛々と進められている様子を見て、思わず安堵したのだった。
「たのしみ……」
「だな」
べつに、夏祭りに参加するわけではない。
買うとしても焼き鳥程度で、それ以外は家にいながらにして祭りの空気を楽しむだけだ。
だが、それがいい。
それでいい。
俺たちが楽しんでいるのだから、誰にも文句は言わせない。
「××、浴衣は?」
「きるよー」
「よし」
「うへへ、たのしみ?」
「楽しみに決まってるだろ。××の浴衣姿なんて、年に一度しか見られないんだし……」
「わたしも!」
「そっか」
「◯◯は、さむえ?」
「作務衣だな。まあ、いつも通りだ」
「いっつもさむえだもんね」
「楽なんだよな……」
ずっとパジャマ姿でいるよりは、まだ恰好がつくだろう。
「でも、あれくさ、だんぞくてきにあめっていってた」
「言ってたな。大丈夫なのかな」
「わかんないけど……」
断続的に雨。
どの程度の雨足かはわからないが、小雨程度に治めてほしいところではある。
俺たちには、せいぜい祈ることしかできないのだった。




558 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:09:08 ID:dbl3plnQ0

2025年7月20日(日)

「──◯◯」
「んが」
優しい声で目を覚ます。
「おはよ」
「──…………」
そこにいたのは、浴衣姿のうにゅほだった。
くるりと回り、うへーと笑う。
「……にあう?」
「ああ、似合うよ。最高」
「ふふ」
浴衣の袖口で口元を隠し、うにゅほが微笑んだ。
普段と違う雰囲気に、なんだかどきどきする。
「けん、こうかんしにいこ」
我が家は公園の真ん前にあるため、焼き鳥やおでんなどの無料券を何枚かいただいている。
ベッドを下り、時刻を確認すると、まだ正午を迎えていなかった。
「祭りの開始って、十二時じゃなかったか?」
「こうかん、もうしてるよ」
「そうなんだ」
慌てて身支度を整え、家を出る。
「あッッッ!」
暑い。
あまりにも、暑い。
今年いちばんの暑さではあるまいか。
断続的に雨という予報であったにも関わらず、中天には太陽が輝いていた。
「はちーねえ……」
「さっさと交換して、戻ろう」
「うん」
逃げ場のない猛暑。
鳥串豚串を焼き続けている町内会の人に心の中で敬礼しながら、無料券を交換し自宅に戻る。
「部屋戻るぞ!」
「うん!」
駆け足で自室へ戻ると、エアコンで冷え切った空気が俺たちを出迎えてくれた。
「はー……」
「ふぶふぃー……」
「みんな、よく外にいられるな!」
「すごい」
俺たちにとっての夏祭りとは、自室でのんびり雰囲気だけを楽しむものだ。
交換してきた豚串を頬張りながら、そっと耳を澄ます。
がやがやとした人混みの音。
明らかに音質の悪い、適当なBGM。
「祭りだなあ……」
「うん!」
俺も、うにゅほも、この空気がたまらなく好きなのだった。
その後、幾度か公園に下りては、さほど美味しくもない食べ物を仕入れ自室で楽しんだ。
日が沈み、人々が解散したころ、うにゅほが言った。
「またらいねん、だね」
「楽しみだな」
「うへー……」
来年も、なんだかんだと晴れてくれればいいのだが。





559 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:09:27 ID:dbl3plnQ0

2025年7月21日(月)

「◯◯、とどいたー」
「おー!」
うにゅほから包みを受け取り、開封する。
Vulcan II TKL Proの箱が、そこにあった。
「これ、あたらしいきーぼーど?」
「そうそう。やーっと届いたか……」
購入してから届くまでに、実に一週間も待たされてしまった。
箱を開き、本体を取り出すと、うにゅほが目を輝かせた。
「わ、なんかきれい!」
「デザインいいだろ」
「うん!」
高級感のある金属製のボディに、白いキーキャップが映える。
REALFORCE GX1の代わりにVulcan II TKL Proを置くと、シックにまとめたデスクの上で多少浮くほど美しかった。
「これ、ひかるの?」
「光る光る。いま繋げるから」
USBハブにコードを繋いだ瞬間、Vulcan II TKL Proが虹色に輝き始めた。
「おー……」
「うーん、ゲーミング」
ごく個人的には、虹色に光る必要はない。
だが、部屋を暗くしていてもキーが打てるという利便性は無視できないだろう。
「きれいだねえ」
「綺麗だけど、重要なのはそこじゃない。打鍵感だ」
「うちやすいかな」
「どうかな」
適当にメモ帳を新規で開き、うにゅほの本名をタイピングする。
「どう?」
「……ん?」
すこし引っ掛かる部分があった。
「だめ?」
「打鍵感自体は、まあ、悪くない。Keychronほどじゃないけど許容範囲。ただ──」
「ただ」
「このキーキャップ、カドが尖り過ぎてる。指が引っ掛かると痛い」
「そんなことあるんだ……」
「××、適当にキー押してみ」
「?」
うにゅほがエンターキーに指を置く。
改行を続けるメモ帳を無視し、俺は、うにゅほの指を取って左下へと滑らせた。
「た!」
「こうなるんだよ……」
「なるほど……」
このキーボードは、デザイン性を高めるために、薄いキーキャップを採用している。
その薄さがあだとなり、タイプ後すこしでも指を滑らせると、隣のキーキャップのカドが指の腹に突き刺さるのだ。
「これ、作ってて気付かなかったのかな。わりと致命的だと思うんだけど」
Vulcan II TKL Proを紹介していたガジェット系YouTuberも、この点については何も言及していなかった。
「へんぴんする……?」
「……あー」
どうしようか。
こちらが慣れれば指が引っ掛かることも少なくはなると思うが、それはそれでどうなのだろう。
「キーキャップ、交換してみるか」
「こうかんできるの?」
「いちおう、できるらしい。三千円くらいで売ってたし、試してみるのもアリだろ」
「おかね、どんどんへる」
「TURTLE BEACHに言ってくれ……」
まさか、こんな落とし穴が待っているとは思わなかった。
テンキーレスサイズのKeychronが欲しい。
思わずそんなことを願うのだった。





560 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:09:52 ID:dbl3plnQ0

2025年7月22日(火)

今日は、月に一度の定期受診の日だった。
早めに家を出て、早めに診察を終えることには成功したのだが──
「……もう、三十分は経ってるぞ」
「そだねー……」
病院ではなく、薬局がすこぶる混んでいた。
どれほど混んでいるかと言えば、この真夏日の最中、外で待たざるを得ない人がいるくらいだ。
俺たちもそのたぐいなのだが、エアコンの効いた車内にいるので、まだましである。
「今日、なんでこんなに混んでるんだろ」
「びょういん、こんでたっけ」
「混んではいたけど、ここまでは。この人たち、どっから湧いたんだ……」
謎である。
車内で三十分以上待ち、受付で薬を受け取ったあと、俺たちは帰途についた。
「今日すごいな。洒落にならないくらい暑い」
「あした、もっとすごいよ……」
「マジで」
「よんじゅうどのとこ、あるって」
「……北海道で?」
「ほっかいどうで」
「うへえ……」
酷暑日なんて概念は、北海道とは縁遠いものだと思っていた。
「ガリガリ君買って帰るか……」
「わたし、はんぶんだすね」
「さんきゅー」
セイコーマートへと立ち寄り、ガリガリ君のソーダ味、コーラ味、そしてBLACKアイスを、それぞれ十本ずつ購入した。
帰宅し、アイスでパンパンの袋を車庫の冷凍庫に突っ込んだあと、ガリガリ君を一本ずつ携えて自室に戻る。
「あちー」
「えあこん、えあこん」
うにゅほがエアコンの電源を入れる。
しばらくすれば、サーキュレーターによって掻き混ぜられた冷風が、書斎側にも届くだろう。
ガリガリ君コーラ味の包装を解き、囓りつく。
口内に広がる酸味と甘さ、そして冷たさがたまらない。
「うめえー……」
「ほいひー……」
しゃくしゃくとソーダ味を囓りながら、うにゅほが頷く。
やはり、猛暑にはガリガリ君なのだ。
ガツンとみかんも美味しいのだが、コストパフォーマンスの面から見てガリガリ君の圧勝である。
「──あ、当たった」
「え!」
「ほら」
「ほんとだ……」
「幸先いいなあ」
「こうかん、する?」
「しないよ。××、いるか?」
「いる!」
うにゅほに当たり棒を渡す。
恐らく、しっかりと洗ったあと、うにゅ箱に仕舞い込むのだろう。
宝物としては少々子供っぽいが、コンビニで交換するのも恥ずかしいし、捨てるのももったいないので、当たり棒の行き場としてはちょうどいいのかもしれない。





561 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:10:12 ID:dbl3plnQ0

2025年7月23日(水)

新しいスリッパがAmazonから届いた。
歩くたびに何かが落ちるような死んだスリッパを、今の今まで履き続けてきたからだ。
「でか!」
包装を開封したうにゅほが、自分の顔とスリッパを比べる。
「どっちでかい?」
「スリッパのがでかい」
「えっくす、えっくす、える、だって」
「そんくらいじゃないと入らないんだよな……」
「◯◯、あしでかい」
「無駄にな」
うにゅほからスリッパを受け取り、観察する。
足の裏との接地面に、細長いハニカム構造のような層がある。
恐らく、足が蒸れないようになっているのだろう。
「ね、はいて!」
「はいはい」
スリッパを履き、立ち上がる。
「どう?」
「んー……」
「はきごこち、いい?」
「……ちょっと悪い」
「わるいんかい」
「蒸れないのはいいけど、肌触りが悪いな。痛いってほどではないけど……」
「そなんだ……」
「まあ、慣れかな」
「なれる?」
「慣れる慣れる。どうせ、またスリッパが死ぬまで履くんだし」
「わたしのすりっぱ、まだいきてる」
「たしか、同じタイミングで買ったよな」
「うん」
「体重の差かなあ……」
俺とうにゅほとでは、体重に二倍以上もの差がある。
スリッパの寿命が異なるのも、むべなるかなといったところだ。
「しんだすりっぱ、すてる?」
「捨てるだろ。再利用の方法もないし」
「そだね……」
物を大事にしようという心根は立派だが、それが高じるとゴミ屋敷になってしまう。
うにゅほもそれをわかっている。
だからこそ、スリッパを捨てることに消極的同意をしているのだ。
とてもえらいのだった。





562 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:10:33 ID:dbl3plnQ0

2025年7月24日(木)

今日は、大学病院の受診日だった。
午前七時過ぎには家を出て、途中ファミマで朝食をとると、朝のラッシュアワーに巻き込まれた。
「やべ、悠長に食べてる暇なかったかも」
「すーごいこんでる……」
午前八時には採血をしなければならないのに、ようやく駐車場に辿り着く頃には、既に八時十分を過ぎていた。
「◯◯、いそご!」
「いいよ、べつに。そこまで急がんでも」
「えー……?」
「だって、診察は九時だし、実際はそこから三十分は待たされるんだ。早く採血したって無駄無駄」
「そだけど」
「十五分程度遅れたって、誰にも迷惑かからないよ」
「そかな」
「そうだよ」
「ならいいか……」
走る体勢に入っていたうにゅほが、俺の隣を歩き出す。
「……しかし、戻ってきたときヤバそうだな」
「あー」
俺が愛車を振り返って呟くと、うにゅほにも意図が伝わったようだった。
今日の予想最高気温は35℃。
猛暑日になる予定である。
だだっ広い駐車場に日陰は数えるほどしかないし、解放される時刻次第では、俺たちは車内で蒸し焼きになる。
「はやくおわったらいいね」
「マジでな……」
採血をし、診察を終え、薬局へ寄り、すべてから解放されたのは午前十時のことだった。
「よかった、早めに終わったな」
「ねー」
直射日光は厳しいが、まだまだピークを迎えてはいない。
今のうちにサッと帰宅してしまおう。
そんなことを考えながら、愛車に乗り込む。

──ムワッ!

「あッッッ」
「あっつい!」
車内がサウナになっていた。
「エンジン、エアコン!」
「かけてー!」
エンジンを掛け、エアコンを最大にし、慌てて車を降りる。
「とんでもねえ……」
「すごかった……」
「……これ、午後だとどうなってたんだ?」
「くるまのどっか、とけるかも」
「あり得そうで怖い」
五分ほどしてから愛車に乗り込むと、快適な温度になっていた。
今年の夏は、すごい。
俺は改めてそう思うのだった。





563 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:10:51 ID:dbl3plnQ0

2025年7月25日(金)

キーキャップが届いたのだった。
うにゅほが包みを我が物顔で開封していく。
「わ、たーくさん!」
「わりと高級感あるな」
今回購入したのは、Keychronの交換用キーキャップである。
PBT素材でできているため、文字が消えることも、表面がツルツルになることもないだろう。
「──さて、交換してくか」
「わたし、ぬいていい?」
「いいぞ」
「やた!」
うにゅほにキープラーを渡す。
キーキャップをひとつひとつ抜き取っていくのは、地味に手間だしストレスだ。
それを楽しんでやってくれるのだから、とてもありがたい。
「でーきた」
「さんきゅーな」
「うへー」
うにゅほの頭を軽く撫で、今度は新しいキーキャップを嵌めていく。
まずはエンターキーを取り付け、タンッとタイプしてみる。
「……お?」
「?」
次のキー、その次のキーと装着していき、疑念が確信へと変わる。
「××」
「はい」
「このキーキャップ、めっちゃいい。打ち心地が一段階上がった感じ」
「おおー!」
ぱちぱちと、うにゅほが拍手を送ってくれる。
「やっぱ、Keychron製ってのがいいのかな。K2 HEも打ち心地はすこぶるよかったし、普通のキーキャップだと微妙だった可能性はある」
「きーくろん、すごい?」
「ああ、すごい。日本語配列さえしっかりしてくれたら、他のキーボードいらないかも……」
「そんなに」
「そんなに」
「かってほしい?」
「……誕生日?」
「うん」
「欲しい、なあ……」
「うんうん」
うにゅほが満足げに頷く。
「でも、その前に××の誕生日だからな。プレゼント、決めてあるんだ」
「え、なに?」
「それは当日までの秘密」
「なんだろ……」
楽しんでくれているようで何よりだ。
きっと、うにゅほなら喜んでくれるはずである。





564 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:11:13 ID:dbl3plnQ0

2025年7月26日(土)

「今日、わりと涼しいな」
「ねー」
窓の外を見やると、小雨が降っていた。
「雨のおかげか……」
「いままでが、おかしかった」
「その通り」
北海道全土がおかしかった。
猛暑日であればまだしも、酷暑日まで記録したのだ。
外気温40℃なんて、正直想像がつかない。
「本州はまだ暑いんだっけ」
「うん、あつい。あついとこ、あついよ」
「大変だなあ……」
「ねー」
所詮は他人事とばかりに頷き合い、エアコンの効いた自室でガリガリ君を頬張る。
至福の時だ。
「来週はどうなんだろう」
「うーと、たしか、そんなでもなかったきーする」
「どのくらい?」
「さんじゅういちどとか、にどとか」
「あー、そんくらいか」
そう口にし、ふと気付く。
「……30℃超えたら真夏日だよな」
「うん」
「感覚麻痺してるな、俺たち」
「してる……」
最高気温が30℃を超えたら、暑い。
そのはずなのに、とてもそうとは思えない。
酷暑が俺たちの感覚を破壊していったに違いない。
「──でも、考えてみれば、俺たちの部屋って五月六月くらいから30℃になってたよな」
「なってた」
「麻痺してるの、夏のせいじゃないわ。俺たちの部屋がおかしい」
「そだね……」
「猛暑日の日にエアコン切って出掛けたら、どうなるかな」
「……きになる」
「気になるよなあ!」
実験大好き俺とうにゅほである。
「もうしょびのとき、でかけてみる……?」
「出掛けてみるか……」
「うへー」
と言うわけで、次の猛暑日にエアコンを切って出掛けることになってしまった。
室温がどれほど上がるのか、すこしわくわくしている自分がいるのだった。





565 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:11:41 ID:dbl3plnQ0

2025年7月27日(日)

「♪~」
俺の膝に腰掛けたうにゅほが、機嫌よくiPadをいじっている。
Kindleで漫画を読んでいるようだった。
俺は俺で、ヘッドホンを着け、のんびりとYouTubeを眺めている。
至福の時間だ。
「……?」
ふと足元に視線をやって、気が付いた。
何か小さなものが落ちている。
黒いし、ゴマか何かだろうか。
ゴマにしては大きいような気もするが──
「悪い、××」
「?」
うにゅほに謝り、右手を床に伸ばす。
だが、届かない。
うにゅほを膝に乗せた状態では、さすがに届かないようだった。
「どしたの?」
「ほら、ゴミ落ちてる」
「ほんとだ」
あっさりと膝から下り、うにゅほがゴミを拾い上げた。
「それ、なんだ?」
「うと」
うにゅほが目を細める。
「ぎゃ!」
そして、慌ててゴミ箱に捨てた。
「むし!」
「マジで」
キンチョールを手、ゴミ箱へと向かう。
「あ、だいじょぶ。しんでた……」
「死体か」
「うん」
ふと、疑問が浮かぶ。
「……死ぬにしたって、こんなとこで死ぬか?」
自然死ならば餓死だと思うのだが、それならば部屋の片隅で死んでいそうなものだ。
「ふんづけたとか……」
「潰れてた?」
「わかんない」
「わかんないか」
俺も確認したくない。
「てーあらってくるー……」
「あいよ」
まあ、死体でまだよかった。
殺す手間が省けた。
そんなサイコパスのようなことを思うのだった。




566 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:12:04 ID:dbl3plnQ0

2025年7月28日(月)

今日は、所用で銀行へと赴いた。
番号札を取り、背もたれのない席へと腰掛ける。
「……こんでるね」
「混んでるな」
「なんばん?」
番号札をうにゅほに見せる。
117番だ。
「いま、ひゃくはちばん……」
「九人分は待たないと」
「ひえー」
待ち時間を潰すのは、病院で慣れている。
うにゅほといれば苦ではない。
だが、俺が通っている幾つかの病院とは、すこし空気が異なっていた。
待合室が狭いのだ。
その上、混雑もしているものだから、利用客同士の物理的な距離が近く、いまいち会話がしにくい。
「──…………」
「──……」
なんとなく無言で時間を過ごす。
「ひまだね……」
「ああ……」
何かないかとポケットを漁ると、ワイヤレスイヤホンが出てきた。
こんなこともあろうかと、いちおう持ってきたものだ。
「音楽聴く?」
「あ、いいね」
「何がいい?」
「なにかなー……」
俺は右耳に、うにゅほは左耳にワイヤレスイヤホンを装着し、iPhoneでYouTube Musicを開く。
そして、それをうにゅほに手渡した。
「好きなの流していいよ」
「ありがと」
しばしの逡巡ののち、イヤホンから流れ出したのは、サカナクションのライトダンスだった。
なかなかいい選曲だ。
それを視線で伝えると、うにゅほがそっと微笑んだ。
三十分は余裕で待たされたが、やはり苦ではなかった。
うにゅほといれば、時間はすぐに経つ。





567 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:12:22 ID:dbl3plnQ0

2025年7月29日(火)

「──よし、いらんもの売ろう!」
「おー」
膝の上のうにゅほが、ぱちぱちと拍手する。
「なにうるの?」
「サウンドバーとかいらんよなって」
「さうんどばーって、これ?」
うにゅほが、メインディスプレイの下に設置されている横長のスピーカーをぽんぽんと叩く。
「正直、使わん」
「つかわんね……」
「音楽聴くかなって思って買ったんだけど、スピーカーで聴く機会もなかったし、なんならアレクサにお株を奪われた」
「あれくさはつかうね」
「言うだけで好きな曲かけてくれるの、便利が過ぎる」
「わかる」
「てなわけで、買ったはいいけどまったく使わなかったサウンドバーくんはボッシュートです」
「でも、これ、おっきいよ?」
「炭酸水のダンボール箱を組み合わせれば、なんとか」
「あ、いけるかも」
「他にもいろいろあって──」
と、次々と候補を挙げていく。
「まだまだあるねー……」
「あと、漫画も売ろうかなって」
「まんがも?」
「買ったり貰ったりでいろいろあるけど、もう読まないし読む気もない漫画けっこうあるじゃん」
「もったいないきーするけど……」
「××、いったん立って」
「はい」
うにゅほを膝から下ろし、本棚の前に立つ。
「じゃあ、これ読む?」
そう言って、とある青年漫画を一冊手に取った。
具体的な名前は伏せる。
「……よまない」
「読まないよなあ」
「そういうの、うるの?」
「そういうこと。まあ、本棚の棚卸しみたいなもんだよ」
「そか」
うにゅほが頷く。
売る本に関しては、うにゅほの同意が取れたものに限ることにした。
駿河屋に見積もりを依頼したが、さて、いくらになることやら。





568 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:12:38 ID:dbl3plnQ0

2025年7月30日(水)

今日もまた、のんびりとした日々を過ごしていた。
膝の上のうにゅほと、なんてことのない会話を楽しむ。
「サボテン水やった?」
「まだー」
「半月に一度だから、明日くらいかな」
「やりすぎ、だめだからね」
「根腐れするって言うからなあ」
「くさらないでほしい……」
「それはそう」
あのバニーカクタスは、うにゅほの宝物だ。
是非、末永く、元気でいてほしい。
「そう言えば、たまに虫入ってるのってさあ」
「うん?」
「やっぱ、エアコンから入ってきてるのかな。室外機からさ」
「ほかにないもんね……」
「網はあるんだろうけど、小さい虫なら遮れないし」
「ちいちゃいのなら、まだ──」
その瞬間、俺たちの視界を横切るものがあった。
「!」
「やべ、キンチョール!」
「はい!」
即座に膝から下りたうにゅほが、俺にキンチョールを手渡してくれる。
敵は羽虫だ。
親指の爪くらいの大きさで、決して脅威ではないのだが、安全圏である自室に出くさったことは万死に値する。
「おらッ!」
ぷしゅーッ!
飛んでいる羽虫にキンチョールの一撃を浴びせる。
その瞬間、羽虫の高度が一気に下がった。
しかし、まだ飛んでいる。
「がんばって!」
「ああ!」
うにゅほの声援に後押しされ、ついにフローリングに落下した羽虫に、嫌と言うほどキンチョールをぶっかける。
やがて羽虫は動かなくなった。
「勝利!」
「やた!」
うにゅほが俺に抱き着く。
それを抱き上げ、くるりと回ったあと、ティッシュで羽虫の死骸を包んで捨てた。
さようなら、羽虫。
二度と生まれ変わってくるんじゃねえぞ。





569 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:13:00 ID:dbl3plnQ0

2025年7月31日(木)

駿河屋から見積もりが届いた。
「おお、六万……」
「わ」
「そこそこの収入になるな」
「すごいね!」
さて、駿河屋に物を送りつけるとなれば、必要となるのは梱包である。
「サウンドバーとヘッドホンは、炭酸水のダン箱を二箱繋げるとして──」
軽く試算してみる。
「まあ、三箱もあれば入るか」
「え、はいる?」
「入らない?」
「はいんないきーする……」
「マジか」
ともあれ、試してみないことには始まらない。
「まず、ぶりーち、いれてみよ」
「ああ」
既に読み通したBLEACH全74巻を、余った炭酸水のダンボール箱に詰めていく。
「──あ、これBLEACHしか入んねえ!」
「でしょ」
どうやら、かなり甘めに見積もっていたらしい。
「どうする? 備蓄の炭酸水全部空けて、もう一箱作る?」
「するしかないきーする」
「そうだな。それ以外だと、明日スーパー行って箱もらってくるしか……」
「それでもいいけど……」
「めんどい」
「そかー」
十五本の炭酸水を部屋の隅に並べ、新たに一箱追加する。
そして、売却する予定の本を次々と詰めていった。
途中で気付く。
「やべ……」
「はいんないね……」
「どうしよう」
「あした、スーパーいく?」
「いや、めんどい」
「そかー」
「まだ資源ゴミに出してないダンボール箱、車庫にないかな」
いそいそと車庫へと向かい、探してみると、潰して平らになったダンボール箱が幾つか見つかった。
「よし、これを組み立てれば!」
「いけるかも」
布テープでダンボール箱を組み上げ、売却物を詰めていく。
「あ、やべ」
「もうひとはこ!」
そして、最終的に、荷物は六箱に膨れ上がった。
「……俺、よく三箱で収まると思ったな」
「さんぱこはむりだとおもった……」
「正解」
「でも、ろっぱこになるとおもわなかった……」
「わかる」
物を売るのは大変だ。
だが、これが六万円になるのなら、安いものである。




570 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2025/08/01(金) 04:13:47 ID:dbl3plnQ0

以上、十三年八ヶ月め 後半でした

引き続き、うにゅほとの生活をお楽しみください
 



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