現在のところ標的型サイバー攻撃は企業や政府機関に対するものが多数ニュースになっています。しかし、もし私生活も狙われるとしたらどうなるでしょうか? 企業や政府ならば内部ネットワークにそれなりのセキュリティ対策が施されていたとしても、自宅ネット接続ではインターネットルーターのファイアーウォールとマシンに入れたウィルス対策ソフトくらいしか防御手段がないのではないでしょうか。そして最近話題の出口対策はほとんど初めから考慮されていません。企業や政府の中でターゲットにされた個人の私生活から収集した情報を基にして、さらに組織への標的型攻撃を仕掛ける事は十分ありうるでしょう。

  標的型攻撃の初期段階でFacebookやLinkedInなどのソーシャルネットワークで事前情報の収集が行われていることは指摘されています。その次の段階になると、ソーシャルネットワークの情報を基にターゲットの私生活を狙った盗聴・盗撮などでの情報収集が行われる可能性があるでしょう。そして現在のPC・携帯電話・スマートフォンなどにはほぼすべてカメラとマイクロフォンが搭載されていますが、これらは監視カメラにもなりえるわけです。実際にPC内蔵カメラを外部から制御して画像を送信させるスパイウェアがあり、アメリカでこれを悪用したコンピューター修理ショップの技術者が逮捕された例が最近ありました。
http://www.theregister.co.uk/2012/07/26/webcam_spyware_pervert_jailed/

  この犯人の21歳の技術者は、ショッフにPCを持ち込んで来た特に女性客を狙ってCamCaptureというスパイウェアを仕込んで修理し、外部からインターネット経由で覗きをしていました。また、被害者の女性数人にはカメラの前で服を脱ぐように指示する脅迫メールを送りつけていたそうです。しかし、その店舗に修理を依頼した姉妹が、修理後からカメラ動作ランプが不可解な点灯をするようになったのに気がついて他の修理ショップに持ち込んだことから、スパイウェアが仕込まれた事が判明して逮捕に至ったということです。この犯人の場合は被害者のコンピューターを直接触って仕込んでいましたが、このようなスパイウェアを感染させるように設定したウェブサイトにフィッシングで被害者を誘導する手段もありうるので、大量のPCを監視カメラ化することが可能になります。

  これと同様の発想のスパイウェアはスマートフォン向けに登場してくるでしょう。実際スパイウェア以前に、Lady Gagaやスカーレット・ヨハンソンの携帯電話から自写ヌード画像などがハッキングで流出する事件が既に起き、日本でもユーザーの意図しない内に個人情報をマーケティング目的で収集する機能を持ったアプリが出回った例がいくつもあるわけです。特にAndroidスマートフォンの場合はユーザーによるアプリ購入は基本的に自己責任方式であり、Google以外が提供するアプリマーケットからもダウンロードできるため、マルウェア混入のアプリがすでに何度も登場しています。その中で、外部からコントロールしてスマートフォンを監視盗聴デバイス化するマルウェアが出てくる可能性がありうるわけです。高性能のCPUを搭載してGPSや様々なセンサーを持つスマートフォンは、ターゲットした相手が常に持ち歩くわけで、標的型スパイ攻撃にとって理想的なデバイスです。と、書いていた間にAndroidのリモートアクセス・トロージャンと思われるマルウェアが中国で登場の話題が出ていました。
http://securitywatch.pcmag.com/none/301002-chinese-espionage-campaign-luckycat-targets-android
  さらに中国のNetQinの調査によると今年前半でのスマートフォンのマルウェア感染は1280万台(Android 78%、Symbian 19%、17,676種のマルウェア)という推計も出ています。
http://www.ciojp.com/news/12570
 
  PCのウィルス対策ソフトはかなり普及して現在はスマートフォン向けの普及の必要性が叫ばれていますが、ここでも外部へ出て行く情報の制御など、ウィルス対策ソフト・レベルでの対策の組込みは急ぐべき課題ではないでしょうか。